お遊び

科学者Jはモニターを眺めて困惑していた。
彼が電脳世界Kの中に作り出した実にリアルな模擬世界αでは、住民がある行為を行っていた。
そのある行為は誰でも簡単に行え、かつαの住人の全てに被害を及ぼさず、利益をもたらす行為だった。
Jはこれは非常に素晴らしい発明だと喜んだが、その数日後、その行為が全く関連性のない別の電脳世界βに奇妙な影響を及ぼしていることに気付いた。
Jは悩んだ。αの行為は、周知の通り、βに何の影響も与えない。然し、それが現実世界から判断すると、世界βに影響を及ぼしているとしか考えられないほど、同時期にβに悪い影響を及ぼしていたのだ。
Jは、ふと、電脳世界をリブートして再構築してみようかと思い立った。
Jは、それを実行しないだけの分別があった。
Jは、懸命にもその世界のことを誰にも知らせないまま、ひっそりと命を絶った。これで、現実世界はある未曾有の危機を逃れることができたかもしれない。できなかったかもしれない。
誰か、N次元上の存在にリブートされる可能性を。